WEB・CD-ROM・DTPのサムクイックがお届けするコラムページ「私的事情」です。 どうぞごゆるりとお楽しみください。

 
 
 
外村 大 左の写真は、韓国ソウル、清渓川の上の橋に建てられた全泰壱(チョン・テイル)の像。勤労基準法遵守を叫び焼身自殺を遂げた人です。像の周りの歩道には、個人や労働組合によるメッセージ入りのプレートが埋め込まれており、興味深く読みました。足元が重要、ちょっと立ち止まって見てみましょう。ずっと、そればかりも困るのだけど…。
 
懐メロ朝鮮紀行03:サマータイムは使われなかったが…

2006.8.17



 夏は良い、暮らしは楽だし、お前の父は金持ちだ、と「サマータイム」は歌う。私的事情を述べれば、暑い夏は嫌いだし、暮らしは年中厳しく、家計を支える身でありながら収入も乏しい。しかし、そもそも「サマータイム」も、そうあって欲しいという貧しい黒人たちの思いを反映した歌であったと記憶する。
 「サマータイム」という曲を始めて聞いたのは何時かであったかは覚えていない。でも、ジャズ好きになって当初は、あんまりボーカルものは聴かなかったので、歌詞自体を意識したことはなかったはずだ。また、それが、黒人歌劇「ポギーとベス」で使われたこともそれほど気に留めていなかったと思う。ただ、ギル・エバンスのアレンジによるマイルスの「ポギーとベス」は、いわゆる必聴盤だから高校生くらいで聴いていたかもしれないし、その解説で、「サマータイム」が、どんな歌かの知識を得ていたかもしれない。周知のように、それは、もともとジョージ・ガーシュイン作曲で、黒人歌劇「ポギーとベス」に使われたものである。
 その後、大学に入り、たいした勉強もせずに学部の卒論を書くこととなり、史料集めで戦前の左翼運動関係の雑誌や新聞記事を読むようになった。左翼運動のなかでは演劇もかなり重要な位置を占めていたので、プロレタリア演劇運動関係の記事も多い。そんなことから、日本の新劇の劇団が「ポギーとベス」を1934年に上演していたという記事を見つけた。上演された際のタイトルは「ポーギー」で、当時の新聞は「之はニューヨークより二千哩離れたチャールストン街でネグロの住む裏長屋を中心に宗教、迷信、愛憎等を取扱った黒人劇」であると紹介している。
  「サマータイム」はこの時も歌われたのであろうか。エノケンの「月光値千金」がヒットし、デッィクミネが「セントルイスブルース」を歌っていた時代であるから、「サマータイム」も歌ったかもしれない、だとするとそれは日本語訳にしたのか、などと思って、少々調べたらそんなはずはないということに気付いた。ガーシュイン作曲で歌劇「ポギーとベス」のアメリカでの初演は1935年である。日本での「ポーギー」はあくまでD.B.ヘイワード原作の作品を演劇にしたものだったようだ。そんなわけで、「サマータイム」は聴けなかっただろう。
  だが、よくこのようなアメリカの黒人社会を舞台とした作品に注目した人がいたものだと感心せざるを得ない。当時の日本のプロレタリア文化運動が世界的に最先端の文化を積極的に摂取し、遠く離れた被差別下層民衆への関心を持っていたことは評価されるべきだ。
 以上、まったく朝鮮と関係のない話を書き連ねた。しかし、ほんの少しだけ、朝鮮と関係がある。より正確に言うと、「ポーギー」を日本で上演した劇団と朝鮮との縁が存在する。この劇団は新協劇団と言い、1938年には朝鮮の古典に題材をとった「春香伝」を上演しているのである。  

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04.07.20 第1回:確かにブームではある
04.07.24 第2回:朝鮮語教師のVサイン
04.08.12 第3回:個人的記憶でさかのぼる過去の「韓国ブーム」
04.08.20 第4回:最古の「韓国ブーム」はいつか
04.08.28 第5回:では、「朝鮮ブーム」はどうだろう
04.09.17 第6回:K−POPは知らないけれど……
04.10.02 第7回:前回の補足、中間のまとめと今後の見通し
05.02.04 第8回:キムチの気持ち:その1 過剰な意味づけはやめてくれ!
05.02.25 第9回:キムチの気持ち:その2 諸悪の根源のように言われても……
05.03.18 第10回:キムチの気持ち:その3 帝国末期の脚光?
05.04.04 第11回:キムチの気持ち:その4 学校の中の差別
05.04.11 第12回:キムチの気持ち:その5 第一印象は悪いが……
05.04.15 第13回:キムチの気持ち:その6 旅の土産にどうぞ
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05.05.02 第15回:力道山伝説の? その(1):昨今の情勢を鑑みるに…
05.08.02 第16回:力道山伝説の? その(2):長崎は今日も出身地だった……
05.08.09 第17回:力道山伝説の? その(3):そんなわけで人名辞典の類を調べた(日本編)
05.08.31 第18回:力道山伝説の? その(4):そんなわけで人名辞典の類を調べた(北朝鮮編)
05.09.22 第19回:力道山伝説の? その(5):そんなわけで人名辞典の類を調べた(韓国編)
06.01.30 第20回:力道山伝説の? その(6):初土俵の頃の力道山を伝える新聞記事から
06.02.07 第21回:力道山伝説の? その(7):入幕前の力道山
06.02.15 第22回:力道山伝説の? その(8):文献資料から名前と出身地の変遷の整理を試みた
06.02.21 第23回:力道山伝説の? その(9):同時代の朝鮮人力士たちのケースとの比較
06.02.28 第24回:力道山伝説の? その(10):なぜ、朝鮮人であることが隠されたか
06.03.13 第25回:力道山伝説の? その(11):1963年訪韓後のインタビュー記事
06.03.30 第26回:力道山伝説の? その(12):まとめはないけど、今後の課題
06.07.10 第27回:懐メロ朝鮮紀行01:共に長生きする社会をめざして
06.07.21 第28回:懐メロ朝鮮紀行02:東京大学の金永吉

 
 


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