最近,動物園に出かけることが多いのだが,平日でも動物園はわりと賑わっている.5割は家族(母・子・祖母の強力ユニット).後は若者カップル.それから,外国からの旅行者もいる(おもに中国人.なぜだ?).動物たちのけだるさとは対照的に,人のほうはなぜかはしゃいでいる.笑顔ももれなく3割増しである.
そんなある日,僕はいつものように,ゾウのもとへと向かう.ゾウは,あいかわらず何食わぬ顔で,優雅に水浴びをし,牧草をはみ,背中に日よけの砂をかき上げる.そんな中,ゾウの前でひとりの老人が,なにやらつぶやいている.念仏のようにも聞こえる.手には,「広南従四位白象,南無阿弥陀仏」と書かれた紅い御札(おふだ)を持っている.しばらくして,その老人は麦わら帽子をとり,ゾウに深々と一礼した.空を一瞬にらんでから,その場を去っていった.きょとんとする僕.そして,ゾウもなにかしらきょとんとしているように感じた.
1週間後,またあの老人をゾウの前で見かけた.僕は老人のとなりに座り,尋ねてみた.「すいません,あの,その”広南従四位白象”って,なんなんですか?」「ほぉー,青年,興味があるかね?」「は,はい.なんとなく」「長い話になるけど,いいかね,青年よ」と言って,老人は,”広南従四位白象”について語り始めた.
「日本にはじめてゾウがやってきたのは,応永15年,西暦1408年のことじゃ.南蛮船に乗ってその大きな動物は上陸した.時の将軍足利義持はそのゾウを見て,これは大きな犬か? と言ったそうじゃ.それはさておき,5回目に上陸したゾウ,これが有名じゃ.享保13年(1728),徳川吉宗が清に嘆願してゾウを譲り受けた.長崎に到着した"享保の象"は,歩いて上京する.宮廷で従四位の位が授けられ,"広南従四位白象"と命名される.その後,東海道を経て江戸に入るのじゃ.この象の旅により,日本中の人がゾウを知ることになったのじゃ...」(続)
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