僕はゾウが好きだ。正確に言えば、最近、ゾウが好きになった。6000kgの身体に6kgの脳。恐竜が絶滅した現在、現存する最大の陸上動物だ。少年の頃田舎の動物園でよくゾウを眺めていた。年老いたアジアゾウだ。足を鎖でつながれ、見るからに鬱状態。彼の前で、ゾウさんの唄を陽気に口ずさむ雰囲気はなかった。
ある日、動物園に勤務する叔母に、開園前のゾウ舎にこっそり入れてもらった。そこで目にしたもの。それは、係員が、老化で皮膚がはげたゾウの尻に、ペンキを塗っている光景だった(絶句)。たしかに、動物園のゾウは、見せ物だ。見せ物である以上、きれいであった方がいいかもしれない。ただ、それを見て、悲哀を感じずにはいられなかった。それ以来、僕は動物園に足を運ぶことをやめた。10年以上は行かなかった。この光景とペンキの臭いが、脳の奥深くに「心傷」として刻まれたのに違いない。
そして、21世紀。ゾウと再会する。僕はいま、少年の頃の記憶とともに、この大きな生き物に対峙している。潤いがちなゾウの目を覗き込みながら、「幸せかい?」と問いかける。僕とゾウの物語は、こうして始まった。
|