1番札所では、女性僧侶に熱心にお経を教えられる。いや、しかし私は底抜けに観光気分の抜けないお遍路さんであり、お経を覚えることも念頭外だった。当然、「はいはい」と聞き流し、何となく高揚する気分のみを味わっていた。
寝不足だったため歩く速度はゆっくり。しかも、どのくらいのペース配分でいけるものやら分からないので、必要以上にゆっくり歩いてみた。そしたらかなり疲れたので普通のペースに戻す。人間、何事もなれたペースで行くの一番だ。
3番札所で、お遍路の達人みたいな僧侶と出会う。しばらく話をしていたらタバコを吸い始めた。う〜ん、なるほど、世慣れているやつは違うな。それに思ったほど禁欲的な行程ではないらしいことも分かった。「まあ、オレは12周目だけどね」といっていたので、ホントはこの人バカなんじゃないだろうか、とか罰当たりなことも思った。でも、至ってよい人だったので、話が出来たことが嬉しくもあった。
3番札所から4番札所までの間で、いきなり民家のおばちゃんに呼び止められる。「ねぇ、あんた」。いや、見ず知らずの人に「あんた」とか言われることが少ないのでちょっとびっくり。しかし、こちらは素人(いろいろな意味で)なので、「いや〜、何でしょうか、てへへ」みたいに照れ笑いなどしてみる。すると、おばちゃんいきなりきびすを返して家に入っていってしまった。
な、なんなんだ、ここ!人でなし地域か!と思ったのもつかの間、おばちゃんは2本のジュースを抱えて私の前にきた。面食らっている私に向かって「ほら、もってけ」とこれまた何ともぶっきらぼうな物言い。しかし、私の手にジュースが納まるとおばちゃん、初めてにっこり笑う。そう、これが「お接待」というやつなのだ。そして私にとって初めてのお接待体験だった。
私は元来それほど人懐っこいわけではないし、嫌われる人には徹底的に嫌われて「別に、で?」という態度を取るタイプである。つまり、世事に長けているとは言いがたい人間なのだが、その時はこころからこう言った。「ありがとうございます。お接待をされるのは初めてで嬉しいです」。おばちゃんは「まあ、いけるとこまで頑張って行きな」と背中を押してくれた。四国に自分が受け入れられているかも、と感じた瞬間でもあった。
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